2012年8月13日月曜日

自然エネルギー発電にEPTは定義不能/菅直人の個人的『脱原発』発言

自然エネルギー発電についての対話②

 読者から太陽光発電についてのメールをいただきました。自然エネルギー発電に興味を持っている方であればおそらく誰でも聞いたことがあると思われる「エネルギーペイバックタイム(EPT)」についてのご質問です。
 自然エネルギー発電についてのEPTについてはNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)や産総研(AIST:独立行政法人産業技術総合研究所)が数値を公表していますが、これがとんでもない出鱈目な数値であるため、世間に混乱を引き起こし、脱原発のあとは自然エネルギー発電の導入などという愚かな主張を蔓延させる結果になっています。

 まずいただいたメールを紹介します。



件名:ペイバックタイムの考え方について(2011.07.13)

はじめまして。私は現在、●●、■■で「たたかうあるみさんのブログ」という、共産趣味的鉄道オタクブログを運営している****というものです。(HNはもちろん「あるみさん」であります)
http://tatakauarumi.cocolog-nifty.com/blog/

私は槌田先生や近藤先生の主張される「人間活動による二酸化炭素地球温暖化説は間違い」「自然エネルギーを工業的に利用することは、かえって化石燃料使用の増大をもたらす。」という考え方に全面的に同意するものであります。

ところで、拙ブログ記事において「同僚との電気に関する会話」において
http://tatakauarumi.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-ea42.html
ある方から「太陽電池システムに投入するエネルギーより、取り出すエネルギーは少ないというのは間違い、最近の太陽電池では、ペイバックタイムは2年くらい」とのご意見をいただきました。(化学屋さんで、シリコンの溶融をより効率的に行う研究に携わっていたようです。)

私は「ちきゅう座」サイトに転載された近藤先生の記事「脱原発は科学的な必然(上)」のリンクを示し
http://chikyuza.net/n/archives/9835
いかに太陽光電池が石油および工業資源を浪費しているか示しました。(電力生産図)

すると、「その計算の前提のデータは古いのではないか?」と返され、産総研の「太陽光発電のエネルギーペイバックタイムについて」というサイトを紹介されました。http://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/supplement/supplement_1.html

この図1によりますと、1991年のモジュールと周辺機器への投入エネルギーは、平成19年(2007年)は約1/5にまで減っています。

そこで質問と私の疑問ですが
「脱原発は科学的な必然(上)」で示されたデータはいつのものか?ということと、産総研のデータ比較もひどいもので、91年のいわゆる「メガソーラー」と、家庭用モジュールを比較していること、家庭用モジュールにおける投入エネルギーは、あくまでもそのモジュール単体のみへの投入量であって、これらを「メガソーラー」的以下の、スマートグリッドを利用した「地域(工業的)」発電を安定的に行うために必要なシステムを構築するためのエネルギーが計算されていないのではないか?という疑問です。

ちなみに産総研のデータを近藤先生の電力生産図にいれてみると、投入石油は2円、固体設備は8円となり、10円kW/hで、火力発電と同等、固体設備・廃棄物がやや多くなるかという感じですね。あと、家庭用太陽光電池システムも、200万から4~50万円ぐらいに値下がりし、今回の震災のような長期間電気が止まるときの家庭用バックアップ程度にはつかえそうです。

この点に関して、近藤先生のご見解をいただきたく、メールした次第であります。お忙しいと思いますので、返事は遅くなってもかまいません。

なにとぞよろしくお願いします。



 次に私の返信を紹介します。


**** 様

■はじめまして、HP管理人の近藤です。「たたかうあるみさんのブログ」は時々拝見しております。

■ご質問の件についてお答えします。まず、

> 「太陽電池システムに投入するエネルギーより、取り出すエネルギー
> は少ないというのは間違い、最近の太陽電池では、ペイバックタイムは2年くら
> い」とのご意見をいただきました。(化学屋さんで、シリコンの溶融をより効率
> 的に行う研究に携わっていたようです。)
について検討します。

■EPR(エネルギー収支比)の定義ですが、当該発電プロセスの耐用期間中に投入された全てのエネルギー量の総和(発電装置製造過程で投入されたエネルギーも含む。:近藤追記)に対する、耐用期間(Tlifetime)中に生み出された総電力量の比率ということだと思います。つまり、EPR=Tlifetime/EPTということです。

■さて、まず常識的な判断として、EPTが定義可能、つまりEPR>1.0であるということは、私たちは工業的に利用しうる無限のエネルギーを得たことを意味します。つまり、エネルギー問題は解決したことになります。

■例えば、太陽光発電装置の耐用年数を17年、EPT=2年とすれば、EPR=8.5です。これは、工業的エネルギー1単位を投入することで8.5単位の電力量を得ることを意味します。この8.5単位のエネルギーを太陽光発電装置製造に投入することで、太陽光発電装置8.5単位が製造可能です。つまり、太陽光発電装置が存在しない段階で何らかの工業的なエネルギーを1単位だけ調達できれば、後は等比級数的に供給電力量は拡大できるのです。

■つまり、EPR>1.0などということを平気で言う輩の言うことなど嘘っぱちです(笑)。私たちが唯一つでもEPR>1.0となる技術を持つことができれば、この世からエネルギー問題は存在しなくなります。ただし、装置を製造するための鉱物資源が枯渇すれば別ですが。鉄にしろシリコンにしろ、クラーク数は大きいですからなかなか枯渇しないでしょう。

■知人の化学屋さんは理論的なお話をされているのかもしれませんので、それまでを嘘っぱちなどというつもりはありませんが、少なくとも工業生産プロセスとして現実にものを生産する技術においてEPR>1.0が達成されているとお考えならば、それは大間違いです。太陽光発電パネルの製造においてエネルギーを投入するのはシリコンの溶融工程だけではありません。シリコン鉱石の採鉱、還元、運搬などなど多くの局面でエネルギーを投入しています。

■では、別の角度から検証してみます。私のHPの連載記事において、太陽光発電電力の原価を50円/kWhとしている値は、ほとんど実績であり、大きな誤りは無いと考えます。数値がいつのものかと言われると、何とも言えないのですが(笑)、公開されている数値はかなり酷いものばかりで使う気にはなれません。HPの記事でも書いている通り、日本の太陽光発電の発電実績は100kWh/(㎡年)程度であり、販売価格として260万円/30㎡とした値です。最近の相場は3kWシステムで200万円/24㎡でしょうか?そんなに大きな違いは無いと思います。

■太陽光発電のEPR=8.5だと仮定して、太陽光発電装置価格に含まれる投入エネルギー費用の割合を算定してみます。EPR=8.5より、1kWhの電力量を生産するために投入された工業的エネルギー量は

1/8.5=0.118kWh

■石油価格を25円/リットル、石油の発熱量を10.5kWh/リットルとして石油価格に換算すると、

0.118kWh×(25/10.5)円/kWh=0.281円

■以上から、太陽光発電装置価格に占めるエネルギー費用の比率は

0.281円÷50円=0.56%

■現在の工業製品において、エネルギーの費用が1%以下などということは到底考えられません。エネルギー消費量の大きな素材生産では10%程度がエネルギー費用というのが常識的な数値だと思います。

■もしEPR=8.5が正しいというのならば、太陽光発電装置はとんでもない高値で販売されているということです。

■私のエネルギー産出比の推定では自然エネルギー発電については発電装置価格プラス発電装置運用費用の20%を投入エネルギー費用としています。これはあくまでも目安ですから、異論があるのは当然です。ただ、異論がある場合にはきちんとした裏づけのデータを示してもらうことにしています。残念ながら正面から誤りを指摘されたことはありませんので(笑)、これを否定するだけの根拠を示せる方は居ないのだと納得しています。産総研の数値のようなEPR>1.0などという非現実的な数値は検討するに値しないことはご理解いただけたでしょうか?

★蛇足ですが、産総研といえば温暖化問題で阿部修治が何度か槌田論文に噛み付いています(http://www.env01.net/global_warming/report/buturigakkai/abe201004.pdfなど)が、あまりに低レベルな思考能力しかないのであきれています。産総研の皆さんがそうだとは断言できませんが、少なくともEPRやEPTに対する認識はあまりにも酷い(笑)。

■不安定な自然エネルギー発電システムを運用するためには、蓄電装置やバックアップ用の発電装置、制御システム、更に規模が大きくなれば揚水発電所や高圧送電線網などを新たに建設しなければなりません。これらの全てに投下される工業的エネルギーを算入した上で火力発電のエネルギーコストと比較することが必要なのです。多少発電装置の生産プロセスが改善されたからといってもそんな影響は微々たる物です。その簡単な例を示したのが蓄電池併用の太陽光発電の発電原価計算です。


> ちなみに産総研のデータを近藤先生の電力生産図にいれてみると、投入石油は2
> 円、固体設備は8円となり、10円kW/hで、火力発電と同等、固体設備・廃棄
> 物がやや多くなるかという感じですね。あと、家庭用太陽光電池システムも、
> 200万から4~50万円ぐらいに値下がりし、今回の震災のような長期間電気が止
> まるときの家庭用バックアップ程度にはつかえそうです。
■勿論、太陽光発電装置プラス蓄電池システムは独立電源として使用できるのは当然です。問題は、どのような局面で使うかということです。

■例えば、定期便の就航していない絶海の孤島でどうしても電気が必要だという場合、大陸からケーブルで送電するよりも自然エネルギー発電プラス蓄電装置の方が有効=省資源・省エネルギー的である可能性は存在します。また、宇宙空間では太陽光発電が有効なのも理解できます。

■しかし、今問題にしているのはごく普通の送電線も既にある普遍的な社会の電力供給システムとして敢えて自然エネルギー発電を使うことに意義があるかどうかという問題です。通常の発電装置として導入する場合において最新の火力発電(コンバインドサイクル:熱効率60%程度)よりも更に省資源的である場合に限って、自然エネルギー発電システムの導入に意味が存在します。

■今後ともご健闘をお祈りいたします!



 EPRという言葉をこのホームページでは使っていません。『エネルギー産出比』という言葉で表しています。EPRについてはNEDOやAISTから1.0以上の値が報告されており、このHPで紹介しているエネルギー産出比と同じものとはとても思えないからです(笑)。何かとても作為的な、私には思いもつかない算定方法があるとしか思えませんが・・・。ここでは、EPR=(エネルギー産出比)であることを前提として説明します。

 EPR>1.0の意味について考えます。これは、発電のために投入した全て(発電装置・施設の製造建設、運用、廃棄の全工程を含む)の工業的エネルギー量よりも、運用期間中に発電した電力量のほうが多いことを意味します。自然エネルギー発電の場合には電力の直接の原料となる太陽放射や風力はほとんど無限にある自由財なのでEPRの算出において考慮する必要はありません。
 EPR>1.0であれば、その発電装置を単純再生産した上で余剰電力があることを示します。つまり、その発電装置は拡大再生産することが出来るのです。メールにあるようにEPR=8.5とすると1世代目の発電装置によって2世代目には8.5倍になり、3世代目には8.52=72.25倍になり・・・、太陽光発電装置を作る原料資源が枯渇しない限り、あるいは建設用地が枯渇しない限り無限に拡大することが出来るのです。
 つまり、EPR>1.0の発電技術を手に入れることが出来れば、エネルギーはほとんど無尽蔵に利用できることになり、この世からエネルギー問題はなくなるのです。

 しかし、残念ながら現実的には太陽光発電も含めて全ての発電技術はEPR≦1.0なので無限の電力を生み出す装置は存在しないのです。したがって、EPT≧Tlifetimeとなります。しかし、EPTが耐用期間よりも長くなるということは論理矛盾です。したがって、EPTを定義できる発電技術は存在しないのです。

 仮に、太陽光発電についてEPR=8.5であった場合の太陽光発電パネルの価格を推定してみます。太陽光発電で1kWhを生産するために投入されるエネルギー量は、

1kWh÷8.5=0.118kWh

石油価格を25円/リットル、石油の発熱量を10.5kWh/リットルとして石油価格に換算すると、

0.118kWh×(25/10.5)円/kWh=0.281円

 太陽光発電パネルの価格の内、20%が投入エネルギー費用だとした場合、発電電力1kWhの原価は、

0.281円÷0.2=1.41円

 これはとても安い電力なので、国による高額固定価格買取制度など必要ありません。家庭用3kWシステムの17年間の運用期間中の総発電量を51000kWhとしてこの太陽光発電パネル価格を計算すると次の通りです。

1.41円×51000=71,910円

 同様に太陽光発電パネルの価格の内、10%が投入エネルギー費用だとした場合でも143,820円にすぎません。しかし、実際の3kW太陽光発電パネルの販売価格は200万円を超えています。太陽光発電パネルメーカーは暴利を貪る悪徳業者ということになってしまいます(笑)。
 おそらく、太陽光発電パネルメーカーはそれほど悪徳業者ではないでしょうから、やはりEPR=8.5という数値が現実とはかけ離れたとんでもない値だということなのです。

2012年8月11日土曜日

アーサー・ビナードさん「這っても黒豆」(前半) : とある原発の溶融貫通(メルトスルー)


passport for the future 3

「炎がないのに熱を出す 原子力パワーのふしぎ」,

passport for the future 5

「おとなしいウラン238はプルトニウムに変身!」,


passport for the future 6

「自分で自分をコントロール かしこい原子力発電」,

passport for the future 8

「放射性物質をとじこめる 原子力発電所の5つの壁」,


passport for the future 9

2012年の改訂版を出すなら『原子力発電所の5つのざる』に直していただきたい。


「地震だって平気だよ!」,

passport for the future 10

どのページを見ても吐き気がするようなことが描いてあるが,詩人としていちばん離れ業だなと思うのは「原子力の歴史」をまとめたページ。

passport for the future 2
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レントゲンが、放射線の1つであるエックス線を発見した1895年が、原子力のはじまりだ。翌年、キュリー夫人はその放射線が原子の中から飛び出してくるということをみつけ、そして1905年、アインシュタインは原子が核分裂する時にエネルギーがでるという重要な予言をした。

のちに、この予言が正しいことが証明されると、1942年にフェルミが、世界初の原子炉をつくって、ウラン原子を核分裂させることに成功した。こうした成果をもとにして研究が進められた結果、いまでは世界31カ国で原子力による電気がつくられているよ。
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これはコピーライターでなければ書けない文章。

レントゲンからキュリー婦人,アインシュタイン,フェルミを経由して1997年までまとめて,ひとつも本質,つまり核兵器について語っていない。

これは,にわとりにいっさい言及せずにたまごの歴史を語るようなもの。

つまり,原子力の歴史において,その本質は核兵器の開発と広島,長崎での使用であり,原子力発電はそのほんの一部おまけのようなものでしかない。

因みに,アインシュタインの予言とは「E=mc2」という相対性理論の要の数式。

E=エネルギー
m=核分裂の時にわずかに減る質量
c=光の速度

2012年8月8日水曜日

ホールボディカウンター検査は、受ける必要はない <もみの木医院>

ホールボディカウンター検査は、受ける必要はない 結論を先に述べますと、「ホールボディカウンター検査は、受ける必要はない!~絶対に受けてはいけない!」となります。この結論に至るまでには、今回の原発事故により飛散した放射性物質の核種と、それぞれの人体における被曝のパターンを正しく知る必要があります。 今回の評論は、一部専門的なところもあり、一度読んだだけでは理解しにくいかもしれませんが、ぜひ何度も読んで、すべてを理解してください。 ほとんどのマスコミは全く取り上げていませんが、日本政府がIAEAに報告するために作成した資料で、昨年8月26日に経済産業省から発表された福島第一原発から放出された核種と広島原爆で放出された核種の試算表を見ると、福島県から関東一帯で、決定的というべきか、運命的というべきか、致命的という言うべき重大なことが進行していることがわかります。 アルファ核種として、プルトニウム238、239、240、ベータ核種として、キセノン、ストロンチウム、テルル、ヨウ素、ネプツニウム、セシウム、ガンマ核種として、ヨウ素、セシウムが大量に放出されました。 この中で最も量が多かったのは、希ガスと言われるキセノンガスであり、これはベータ線を出します。乳がんとの関連性が疑われている核種です。 次に多かったのは、セシウムであり、半減期約2年のセシウム134が半分、半減期30年のセシウム137が残りの半分です。これはベータ線も出しますが、一般の人が問題にしているのは、セシウムのガンマ線です。 その次は、ヨウ素、ストロンチウム、テルルで、この中でヨウ素はガンマ線も出しますが、その他の核種はベータ線を出すものです。 アルファ線を出す代表核種であるプルトニウム~地球上における最強の毒と言われる~の降下量は、これらの核種よりは少ないのですが、ここで、プルトニウムよりはるかに大量に降下したネプツニウムに注目しなくてはなりません。ネプツニウムは、半減期2.356日でベータ線を出して、プルトニウム239に変わります。プルトニウム239は、アルファ線を出します。3月15日ごろ、関東から福島に大量に降ったネプツニウムは、約2日経ったくらいから、そこらここらで大量にプルトニウムを生産していたことになります。 さて、3月11日の地震により、福島第一原発は冷却機能を失い、水素爆発に至ったわけですが、その中でプルトニウムを燃料として使用している3号機は、水素爆発の直後、即発臨界という現象が起こり、使用済み燃料プールにあった核燃料が、ほぼすべて核爆発を起こして消失しています。これは、ほとんどの日本の研究者は指摘していませんし、政府や東電も認めていませんが、アメリカのスリーマイル島の原発事故の原因調査の最高責任者であったアニーガンダーセン博士が事故直後から指摘しています。水素爆発の温度は約600℃であるのに対し、核爆発は何千℃、何万℃に至ります。プルトニウムの沸点は、約3200℃であり、水素爆発ではプルトニウムは気体にはなりませんが、核爆発では一瞬で 気体となり、空高く舞い上がります。3号機の使用済み核燃料プールに入れてあった核燃料がほぼすべて無くなっていること、爆発のビデオ解析から爆発のスピードが音速を超えることが明らかであることから、3号機の核爆発は100%間違いないといえます。先に述べた放出核種の分析と、この現象はよく一致します。 3号機の爆発のあった3月14日と2号機と4号機の爆発のあった15日は、公開されているSPEEDIのデータによると、南向きの風が吹いており、死の灰の塊であるプルトニウムを大量に含んだ放射能雲は、千葉、東京、神奈川を直撃しました。幸い雨は降っておらず、風向きが北向きへと変わり、大量の地上降下は避けられましたが、相当の放射能汚染があるはずです。南の風に押し上げられた放射能雲は、15日の午後には栃木県県北、群馬県県北、福島へ到達し、残念ながら小雨の降っていたこれらの地方には、大量の地上汚染となりました。つまり、これらの地方の放射性物質による放射能汚染は、巷で言われているセシウムだけではなく、大量のアルファ核種~プルトニウムなどや、ベータ核種~ストロンチ ウムなどによる汚染があるということになります。 ガンマ線は、市販のガイガーカウンターやシンチレンションカウンターで簡単に測定できますが、アルファ線、ベータ線は、特殊なガイガーカウンター~その他の機器を使用しないと測れません。特殊なガイガーカウンターで那須町、那須塩原市の土壌を測定してみましたが、やはり大量のアルファ線~すなわちプルトニウムと考えられるものを検出します。 ここで、内部被ばくと外部被ばくの違い、アルファ、ベータ、ガンマ、それぞれの核種の特徴を簡単にまとめてみましょう。 まず、アルファ線について、空気中では、せいぜい3センチから45ミリくらいしか進みません。ついで、ベータ線は1メートルから最大10メートル進みます。ガンマ線は100メートルくらい到達します。 外部被ばくについて、これは人体が外部から受ける放射線による被曝です。したがって、アルファ線は無視してよく、一部ベータ線も影響しますが、ガンマ線が主体です。ガンマ線は、鉄筋の建物ならば防護できますが、木造では防護できず、ガンマ線源から遠ざかること~近寄らないこと、疎開や移住することで防護できます。 今回の事故で問題になっている核種は、セシウム134と137です。 内部被ばくについて、これは人体が呼吸や飲食によって、放射性物質を取り込んで生じる被曝です。アルファ線、ベータ線、ガンマ線、すべての放射線が関係します。この中で特に影響の大きいものが、アルファ線とベータ線です。この2種は、人間の2本鎖DNAを2本とも切断します。障害細胞の修復困難の可能性~すなわち発ガンの可能性が高まります。ガンマ線は1本だけです。前述のようにアルファ線は、人体の中では、ほんの数ミリしか進みません。たった数ミリしか進まないから力が弱いのではなく、その短い距離で猛烈にエネルギーを消費して細胞を傷害しますので、人体には特に悪い放射線です。 今回の事故で主として問題になる核種は、プルトニウム、ストロンチウム、ヨウ素、セシウム、キセノンなどです。 この中で、まずヨウ素131を見てみましょう。ヨウ素131を呼吸で吸い込むと、すぐに甲状腺に集まってきます。日本人は海藻をよく食べるから大丈夫などということは、ありません。甲状腺内でベータ崩壊が起こり、ベータ線を出して甲状腺を傷つけます。ベータ崩壊に伴って出てきたキセノン131のうちの一部がガンマ崩壊して、ガンマ線を出して2度甲状腺を傷つけます。ヨウ素131の物理学的半減期は8日で、8日で吸い込んだヨウ素131の半分は、キセノン131に変わります。一方、生物学的半減期は80日であり、これは吸い込んだヨウ素131が体の中から半分が出て行く時間です。いずれにせよ、80日目に調べたのでは、ヨウ素131は体の中にはほとんどありませんので、ホールボ ディカウンターなどの被曝したかどうかの検査をしても意味がありません。物理学的半減期が短い放射性物質は、一気に崩壊が起こり、放射線が一気に出て細胞障害がおこるので、発ガン性が高いと覚えておいてください。 セシウム137の場合は、物理学的半減期30年>生物学的半減期70~100日であって、一気にはベータ崩壊とガンマ崩壊が起こりませんが、体から排泄されるまで連続して放射線被曝を生じて発ガン性が高まります。ホールボディカウンターで検出されるものは、この核種です。 プルトニウムとストロンチウムは、いずれも物理学的半減期、生物学的半減期ともに、2万4千年と数十年(プルトニウム239)、29年と数十年(ストロンチウム90)と半減期の長い放射性物質です。いずれも人体に入ると長期間にわたり細胞を傷害して、しかも近くの細胞を執拗に障害するので、発ガンの危険の特に高い放射性物質です。ホールボディカウンターでは全く検出できない核種です。 いよいよ、本題のホールボディカウンターですが、NaI(TI)シンチレーション検出機を使って全身を検査するものです。基本的にはガンマ線を放出する核種、セシウム134、137、カリウム40、ヨウ素131などのγ線を出す核種を検出するものです。ベータ核種のストロンチウム90やアルファ核種のプルトニウム239などの最も危険な核種は検出できません。また、正確に測るには、30分以上かけて、データの分析に熟練した技師が行う必要があり、とても2~3分の流れ作業的検査では正確な被曝の証拠は出ません。ECRR(ヨーロッパ放射線防護委員会)のバズビー博士は「そもそもセシウムしか重要視していないホールボディカウンター検査は意味がない。こんなものにお金を使うより、食の安全にお金を かけるべきだ。」と言っておられます。 福島県では、昨年から住民のホールボディカウンター検査が始まりましたが、被曝の検出率は数%と低いようです。栃木県でも、18歳以下の住民を対象に検査を行うように予算が付けられるようですが、どうでしょうか。おそらく内部被ばくが証明できるのは、検査人数の1%以下でしょう。 事故から1年が経とうとしておりますこれからの時期にホールボディカウンター検査をしても、ヨウ素131は全く検出できませんし、もともとプルトニウム、ストロンチウムは全く検出できません。したがって、ほとんどの人が内部被ばくは無かったとされてしまいます。実際は、ヨウ素131の大量被ばく、プルトニウムとストロンチウムもかなりの量を内部被ばく、セシウムもそれなりに大量に被曝しているのに。 これでは、原発村の学者たちの思うつぼにはまります。原発村の学者は、データがほしいのです。 栃木県や福島県の住民を検査したが、ほとんど内部被ばくはなかった。したがって、今後がん患者が増えても、原発事故によるものではない~こういう結論がほしいのです。本当は、アルファ核種やベータ核種の内部被ばくを正確に測定できる機械で測定せず、しかも短時間にいい加減な測定をして、内部被ばくがなかったことにして導き出した、でたらめな結論であるにもかかわらず。 彼らは、ICRP(国際放射線防護委員会)の内部被ばくを考慮しない、外部被ばくだけの放射線障害の結論~チェルノブイリ原発事故では、原発職員が約50名急性放射線障害で死亡したが、住民への影響は、小児の甲状腺ガンがほんの少し増えただけであった!その他の病気が増えたのは、ストレスによるものである!~他の臓器のガンや奇形児の出産も大幅に増えており、完全なでたらめ!!~こんな結論を今だに信じて疑わない~疑いたくない連中です。 もう一度言いましょう! 原発村の学者は、内部被ばくを十分に調べた、外部被ばくも測定したが、内部被ばくはほとんどなかったので、ガン患者が激増しても原発事故のせいではない。原発事故の住民への影響はなかった~という結論(もちろん!完全なデタラメ!)がほしいのです。 栃木県の放射線防護のアドバイザーも福島県の責任者も、これら原発村の学者グループであることから、いずれの県も住民が見殺しにされるか、モルモットにされることは明らかです。 結論として、ホールボディカウンター検査は受ける必要はない~絶対に受けてはいけないということになります。 もし、あなたの子供がホールボディ検査を受けたとすると、おそらく内部被ばくはないと判定されるでしょう。そして、数年後あるいは10数年後に原発事故の放射線の影響でガンを発症しても、それは原発事故のせいではないといわれるでしょう。担当者は、きっとこう言うはずです。「だって、ホールボディカウンター検査で内部被ばくがないと言われたんでしょう?だったら、お子さんがガンになったって、それは原発事故のせいではないですよ。日ごろの健康管理が悪かったんじゃないですか?」と。 2012年1月17日               もみの木医院長  川口 幸夫