2013年8月17日土曜日

福島県農業者の被ばく不安は消えない 農地土壌汚染地図作りで分かってきたこと  本日付東京新聞が福島県生協連合・JA新ふくしま・福島大学が共同で進める「農地土壌スクリーニングプロジェクト」を取り上げている。カタカナ言葉では何のことか分からないだろうが、「簡単に言うと放射性物質セシウムの汚染地図作りだ」(ならば最初からそう言えばいいのに)。「農地の汚染度を正確につかむことで、安全で安心な生産・流通・消費システムをつくるのが狙い」で、「昨年十月から始めた」。スクリーニングの「対象は水田、畑、果樹園など計六千六百ヵ所で、それぞれ三ヵ所ずつ測る」という。話の核心は、こうしたスクリーニングの結果として、汚染農地で働く人の年間被ばく量が1ミリシーベルト以下の環境を取り戻すのは難しい、つまり、放射性物質の作物への移行を減らす方法の実施で生産物の食品としての安全性は確保できても、土壌汚染からの生産者被ばくに対する不安は、今のままでは払拭できないことが分かってきたということだ。  被ばく不安 果樹農家 ゼネコン頼みの除染に限界(3・11後を生きる 井上能行のふくしま便り) 東京新聞 2013年7月30日 4面  ここで取り上げているのは、果実へのセシウム移行を減らす最善の方法と認められている樹皮を剥ぐ方法を実施している果樹園の話だ。この方法を実施している果樹園の中には、剥いだものの処分できない高線量の樹皮が残っている。「JA新ふくしま農業振興対策室室長補佐の紺野茂美さんは、『栽培法の工夫と事前の検査で、福島県産の安全性は高い』と話す。一方、『果樹農家の年間被ばく線量は1ミリシーベルトを超える』と健康への影響を心配する。土壌スクリーニングの結果から、その農地で働いた人の積算被ばく線量が推計できないか、という研究が福島大学で始まったという」。  話は、「除染作業が進む中で、年間1ミリシーベルト以下の環境に戻すのは難しいことが分かってきた。ゼネコン頼みの除染は、技術と費用の両面で行き詰ったのだ。別の方法を探るときだろう」と、いささか勇み足気味に終わる(果実へのセシウム移行妨げる果樹園の除染方法や、放射性セシウムを土壌深く埋め込む反転耕で表面線量を下げたり、カリウムの大量散布で作物のセシウム吸収を妨げる田畑の「除染」?方法、生産物の安全確保の方法を考案したのはゼネコンというより農業専門研究機関であり、それを実施しているのもゼネコンいうより、農業者自身である)。  とはいえ、年間1ミリシーベルト以下の環境に戻すのは難しいというのは、果樹園に限らず、普通の田畑でも同じであろう。農業者の被ばくへの懸念を、遅まきながら、おそらくは大新聞?では初めて正面から取り上げた記事の掲載に敬意を表したい。これは、専ら食品安全の確保、風評被害の克服、それによる福島農業の再興を唱える国、県、多くの農業・流通・消費関係者に対して、筆者がこのホームページを通じ1)、あるいは雑誌論文2)を通じ、早くから提起してきた問題であった。生産者自身が健康不安を抱えながら営む農業、ときに子どもや孫を遠方に避難させて一人で歯を食いしばって営む農業、それが人々に健康的な食品を贈る健全な農業なのか。再興を目指す農業とはそういう農業なのか。  国も、県も、多くの農業関係者は、こういう考えを無視し、軽視し、敵視さえしてきた。この記事が、食品の安全だけけでなく、生産者の安全・安心にも同等に気を配る小山良太氏等の努力を広く知らしめ、国や県を動かすことにつながるよう、切に願う。それなしでは福島農業の真の再興はない。まさに、小山良太氏が言うとおりだ。  福島第一原発事故からの2年間、国は、放射性物質対策に関して、何か問題が起きると対策を講じるといった対症療法だけを進めてきた。小手先の対策ばかりを延々と続けていても根本的な解決にはならない。そもそも、現状分析をして、何がどう汚染され損害を受けたのかをはっきりさせるところから始めなければ対策も打ちようがない。  まずは放射性物質の詳細な分布図(汚染マップ)の作成が急務である。それも全県的全国的に取り組まなければ意味がない。汚染度合いが分からないのに効果的な対策をとることは難しい。  福島県では生産者や関係者の努力で、作物ごとにセシウムの移行メカニズムが分かってきた。作物ごとの移行係数が解明され、土壌成分や用水など農地をめぐる周辺環境の状況が分かれば、この先の作付け計画を立てられる。  現在、JA新ふくしまの汚染マップ作成事業に福島県生協連(日本生協連会員生協に応援要請)の職員・組合員も参加し、産消提携で全農地を対象に放射性物質含有量を測定して汚染状況をより細かな単位で明らかにする取り組みを実施している。福島市を含むJA新ふくしま管内は、水田で約25%、果樹園地で約50%の計測が完了しマップを作成している。それに基づいた営農指導体制の構築をも標榜している。  ただし、公的なものではない。今後は、国が主導して、全国のデータを集約し公表する必要がある。  風評被害についても同じことが言える。風評被害とは、適切な情報が消費者に届いていないことが原因で消費者が不安を増大し、福島県産のものは買わないという行動に出ることで生じる。「大丈夫」「福島応援」というキャンペーンだけで購買してもらうには限界があることもはっきりした。消費者へ安心情報を提供するためには、科学的なデータを公表することが必要である。農産物に関する放射性物質汚染対策の根幹は、土壌をはかることにあり、それを広域に網羅した土壌汚染マップの作成が急務だといえる(農業情報研究所注)。  JA新ふくしまと福島県生協連の取り組みのような消費者も関わる検査体制づくりとそこでの認証の仕組みを国の政策へと昇華させていくことが必要となる。現状に落胆していても事態は進まない。協同組合間協同をベースとしたボトムアップ型の制度設計と政策提言が求められている。   【提言・震災復興と協同組合】福島第一原発事故・県民と協同組合の苦闘続く 小山良太・福島大学経済経営学類准教授、うつくしまふくしま未来支援センター・産業復興支援部門長 農業協同組合新聞 13.7.25(平成25年7月20日号 4面)より 1) 福島県 放射性セシウム暫定規制値超の玄米が続出 土壌汚染は人が住めないほどに深刻ではないか,11.11.26 福島県 米放射性セシウム濃度規制値超の要因 土壌は高濃度汚染 空間線量率は毎時1.4μSv超,12.1.7 現行規制値で食品は安全 規制強化で「農業は壊滅的な打撃」論の陥穽 農家の健康はどうなる,12.1.14 農水省 除染で作物汚染は検出下限値未満 それでも農業者は安心できない農地汚染レベル,12.11.23 2) 放射能汚染がつきつけた食と農への難問──土壌生態系の崩壊は何をもたらすか 世界(岩波書店) 2012年2月号 75-83頁 原発災害による農家の痛手はどうしたら癒せるのか(科学時評) 『科学』 2012年2月号 0128-0129 原発事故と食と農(特集 原発再稼働なぜ) 生活経済政策(生活経済研究所) 2012年9月号 24-28頁  農業情報研究所注:それにもかかわらず、政府はこんな食品安全PR情報を政府インターネットテレビで全国に一斉に流した。その中に、「土壌」に関する情報はまったく含まれていない。 「風評」の根を断ち切ろうとする真摯な努力を踏みにじるようなやり方だ。これでは風評被害を煽るだけである。