2012年8月13日月曜日

自然エネルギー発電にEPTは定義不能/菅直人の個人的『脱原発』発言

自然エネルギー発電についての対話②

 読者から太陽光発電についてのメールをいただきました。自然エネルギー発電に興味を持っている方であればおそらく誰でも聞いたことがあると思われる「エネルギーペイバックタイム(EPT)」についてのご質問です。
 自然エネルギー発電についてのEPTについてはNEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)や産総研(AIST:独立行政法人産業技術総合研究所)が数値を公表していますが、これがとんでもない出鱈目な数値であるため、世間に混乱を引き起こし、脱原発のあとは自然エネルギー発電の導入などという愚かな主張を蔓延させる結果になっています。

 まずいただいたメールを紹介します。



件名:ペイバックタイムの考え方について(2011.07.13)

はじめまして。私は現在、●●、■■で「たたかうあるみさんのブログ」という、共産趣味的鉄道オタクブログを運営している****というものです。(HNはもちろん「あるみさん」であります)
http://tatakauarumi.cocolog-nifty.com/blog/

私は槌田先生や近藤先生の主張される「人間活動による二酸化炭素地球温暖化説は間違い」「自然エネルギーを工業的に利用することは、かえって化石燃料使用の増大をもたらす。」という考え方に全面的に同意するものであります。

ところで、拙ブログ記事において「同僚との電気に関する会話」において
http://tatakauarumi.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-ea42.html
ある方から「太陽電池システムに投入するエネルギーより、取り出すエネルギーは少ないというのは間違い、最近の太陽電池では、ペイバックタイムは2年くらい」とのご意見をいただきました。(化学屋さんで、シリコンの溶融をより効率的に行う研究に携わっていたようです。)

私は「ちきゅう座」サイトに転載された近藤先生の記事「脱原発は科学的な必然(上)」のリンクを示し
http://chikyuza.net/n/archives/9835
いかに太陽光電池が石油および工業資源を浪費しているか示しました。(電力生産図)

すると、「その計算の前提のデータは古いのではないか?」と返され、産総研の「太陽光発電のエネルギーペイバックタイムについて」というサイトを紹介されました。http://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/supplement/supplement_1.html

この図1によりますと、1991年のモジュールと周辺機器への投入エネルギーは、平成19年(2007年)は約1/5にまで減っています。

そこで質問と私の疑問ですが
「脱原発は科学的な必然(上)」で示されたデータはいつのものか?ということと、産総研のデータ比較もひどいもので、91年のいわゆる「メガソーラー」と、家庭用モジュールを比較していること、家庭用モジュールにおける投入エネルギーは、あくまでもそのモジュール単体のみへの投入量であって、これらを「メガソーラー」的以下の、スマートグリッドを利用した「地域(工業的)」発電を安定的に行うために必要なシステムを構築するためのエネルギーが計算されていないのではないか?という疑問です。

ちなみに産総研のデータを近藤先生の電力生産図にいれてみると、投入石油は2円、固体設備は8円となり、10円kW/hで、火力発電と同等、固体設備・廃棄物がやや多くなるかという感じですね。あと、家庭用太陽光電池システムも、200万から4~50万円ぐらいに値下がりし、今回の震災のような長期間電気が止まるときの家庭用バックアップ程度にはつかえそうです。

この点に関して、近藤先生のご見解をいただきたく、メールした次第であります。お忙しいと思いますので、返事は遅くなってもかまいません。

なにとぞよろしくお願いします。



 次に私の返信を紹介します。


**** 様

■はじめまして、HP管理人の近藤です。「たたかうあるみさんのブログ」は時々拝見しております。

■ご質問の件についてお答えします。まず、

> 「太陽電池システムに投入するエネルギーより、取り出すエネルギー
> は少ないというのは間違い、最近の太陽電池では、ペイバックタイムは2年くら
> い」とのご意見をいただきました。(化学屋さんで、シリコンの溶融をより効率
> 的に行う研究に携わっていたようです。)
について検討します。

■EPR(エネルギー収支比)の定義ですが、当該発電プロセスの耐用期間中に投入された全てのエネルギー量の総和(発電装置製造過程で投入されたエネルギーも含む。:近藤追記)に対する、耐用期間(Tlifetime)中に生み出された総電力量の比率ということだと思います。つまり、EPR=Tlifetime/EPTということです。

■さて、まず常識的な判断として、EPTが定義可能、つまりEPR>1.0であるということは、私たちは工業的に利用しうる無限のエネルギーを得たことを意味します。つまり、エネルギー問題は解決したことになります。

■例えば、太陽光発電装置の耐用年数を17年、EPT=2年とすれば、EPR=8.5です。これは、工業的エネルギー1単位を投入することで8.5単位の電力量を得ることを意味します。この8.5単位のエネルギーを太陽光発電装置製造に投入することで、太陽光発電装置8.5単位が製造可能です。つまり、太陽光発電装置が存在しない段階で何らかの工業的なエネルギーを1単位だけ調達できれば、後は等比級数的に供給電力量は拡大できるのです。

■つまり、EPR>1.0などということを平気で言う輩の言うことなど嘘っぱちです(笑)。私たちが唯一つでもEPR>1.0となる技術を持つことができれば、この世からエネルギー問題は存在しなくなります。ただし、装置を製造するための鉱物資源が枯渇すれば別ですが。鉄にしろシリコンにしろ、クラーク数は大きいですからなかなか枯渇しないでしょう。

■知人の化学屋さんは理論的なお話をされているのかもしれませんので、それまでを嘘っぱちなどというつもりはありませんが、少なくとも工業生産プロセスとして現実にものを生産する技術においてEPR>1.0が達成されているとお考えならば、それは大間違いです。太陽光発電パネルの製造においてエネルギーを投入するのはシリコンの溶融工程だけではありません。シリコン鉱石の採鉱、還元、運搬などなど多くの局面でエネルギーを投入しています。

■では、別の角度から検証してみます。私のHPの連載記事において、太陽光発電電力の原価を50円/kWhとしている値は、ほとんど実績であり、大きな誤りは無いと考えます。数値がいつのものかと言われると、何とも言えないのですが(笑)、公開されている数値はかなり酷いものばかりで使う気にはなれません。HPの記事でも書いている通り、日本の太陽光発電の発電実績は100kWh/(㎡年)程度であり、販売価格として260万円/30㎡とした値です。最近の相場は3kWシステムで200万円/24㎡でしょうか?そんなに大きな違いは無いと思います。

■太陽光発電のEPR=8.5だと仮定して、太陽光発電装置価格に含まれる投入エネルギー費用の割合を算定してみます。EPR=8.5より、1kWhの電力量を生産するために投入された工業的エネルギー量は

1/8.5=0.118kWh

■石油価格を25円/リットル、石油の発熱量を10.5kWh/リットルとして石油価格に換算すると、

0.118kWh×(25/10.5)円/kWh=0.281円

■以上から、太陽光発電装置価格に占めるエネルギー費用の比率は

0.281円÷50円=0.56%

■現在の工業製品において、エネルギーの費用が1%以下などということは到底考えられません。エネルギー消費量の大きな素材生産では10%程度がエネルギー費用というのが常識的な数値だと思います。

■もしEPR=8.5が正しいというのならば、太陽光発電装置はとんでもない高値で販売されているということです。

■私のエネルギー産出比の推定では自然エネルギー発電については発電装置価格プラス発電装置運用費用の20%を投入エネルギー費用としています。これはあくまでも目安ですから、異論があるのは当然です。ただ、異論がある場合にはきちんとした裏づけのデータを示してもらうことにしています。残念ながら正面から誤りを指摘されたことはありませんので(笑)、これを否定するだけの根拠を示せる方は居ないのだと納得しています。産総研の数値のようなEPR>1.0などという非現実的な数値は検討するに値しないことはご理解いただけたでしょうか?

★蛇足ですが、産総研といえば温暖化問題で阿部修治が何度か槌田論文に噛み付いています(http://www.env01.net/global_warming/report/buturigakkai/abe201004.pdfなど)が、あまりに低レベルな思考能力しかないのであきれています。産総研の皆さんがそうだとは断言できませんが、少なくともEPRやEPTに対する認識はあまりにも酷い(笑)。

■不安定な自然エネルギー発電システムを運用するためには、蓄電装置やバックアップ用の発電装置、制御システム、更に規模が大きくなれば揚水発電所や高圧送電線網などを新たに建設しなければなりません。これらの全てに投下される工業的エネルギーを算入した上で火力発電のエネルギーコストと比較することが必要なのです。多少発電装置の生産プロセスが改善されたからといってもそんな影響は微々たる物です。その簡単な例を示したのが蓄電池併用の太陽光発電の発電原価計算です。


> ちなみに産総研のデータを近藤先生の電力生産図にいれてみると、投入石油は2
> 円、固体設備は8円となり、10円kW/hで、火力発電と同等、固体設備・廃棄
> 物がやや多くなるかという感じですね。あと、家庭用太陽光電池システムも、
> 200万から4~50万円ぐらいに値下がりし、今回の震災のような長期間電気が止
> まるときの家庭用バックアップ程度にはつかえそうです。
■勿論、太陽光発電装置プラス蓄電池システムは独立電源として使用できるのは当然です。問題は、どのような局面で使うかということです。

■例えば、定期便の就航していない絶海の孤島でどうしても電気が必要だという場合、大陸からケーブルで送電するよりも自然エネルギー発電プラス蓄電装置の方が有効=省資源・省エネルギー的である可能性は存在します。また、宇宙空間では太陽光発電が有効なのも理解できます。

■しかし、今問題にしているのはごく普通の送電線も既にある普遍的な社会の電力供給システムとして敢えて自然エネルギー発電を使うことに意義があるかどうかという問題です。通常の発電装置として導入する場合において最新の火力発電(コンバインドサイクル:熱効率60%程度)よりも更に省資源的である場合に限って、自然エネルギー発電システムの導入に意味が存在します。

■今後ともご健闘をお祈りいたします!



 EPRという言葉をこのホームページでは使っていません。『エネルギー産出比』という言葉で表しています。EPRについてはNEDOやAISTから1.0以上の値が報告されており、このHPで紹介しているエネルギー産出比と同じものとはとても思えないからです(笑)。何かとても作為的な、私には思いもつかない算定方法があるとしか思えませんが・・・。ここでは、EPR=(エネルギー産出比)であることを前提として説明します。

 EPR>1.0の意味について考えます。これは、発電のために投入した全て(発電装置・施設の製造建設、運用、廃棄の全工程を含む)の工業的エネルギー量よりも、運用期間中に発電した電力量のほうが多いことを意味します。自然エネルギー発電の場合には電力の直接の原料となる太陽放射や風力はほとんど無限にある自由財なのでEPRの算出において考慮する必要はありません。
 EPR>1.0であれば、その発電装置を単純再生産した上で余剰電力があることを示します。つまり、その発電装置は拡大再生産することが出来るのです。メールにあるようにEPR=8.5とすると1世代目の発電装置によって2世代目には8.5倍になり、3世代目には8.52=72.25倍になり・・・、太陽光発電装置を作る原料資源が枯渇しない限り、あるいは建設用地が枯渇しない限り無限に拡大することが出来るのです。
 つまり、EPR>1.0の発電技術を手に入れることが出来れば、エネルギーはほとんど無尽蔵に利用できることになり、この世からエネルギー問題はなくなるのです。

 しかし、残念ながら現実的には太陽光発電も含めて全ての発電技術はEPR≦1.0なので無限の電力を生み出す装置は存在しないのです。したがって、EPT≧Tlifetimeとなります。しかし、EPTが耐用期間よりも長くなるということは論理矛盾です。したがって、EPTを定義できる発電技術は存在しないのです。

 仮に、太陽光発電についてEPR=8.5であった場合の太陽光発電パネルの価格を推定してみます。太陽光発電で1kWhを生産するために投入されるエネルギー量は、

1kWh÷8.5=0.118kWh

石油価格を25円/リットル、石油の発熱量を10.5kWh/リットルとして石油価格に換算すると、

0.118kWh×(25/10.5)円/kWh=0.281円

 太陽光発電パネルの価格の内、20%が投入エネルギー費用だとした場合、発電電力1kWhの原価は、

0.281円÷0.2=1.41円

 これはとても安い電力なので、国による高額固定価格買取制度など必要ありません。家庭用3kWシステムの17年間の運用期間中の総発電量を51000kWhとしてこの太陽光発電パネル価格を計算すると次の通りです。

1.41円×51000=71,910円

 同様に太陽光発電パネルの価格の内、10%が投入エネルギー費用だとした場合でも143,820円にすぎません。しかし、実際の3kW太陽光発電パネルの販売価格は200万円を超えています。太陽光発電パネルメーカーは暴利を貪る悪徳業者ということになってしまいます(笑)。
 おそらく、太陽光発電パネルメーカーはそれほど悪徳業者ではないでしょうから、やはりEPR=8.5という数値が現実とはかけ離れたとんでもない値だということなのです。

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